メディア掲載

食品化学新聞の連載第6回目が掲載されました/亀田製菓様×RDサポート対談

※本連載は食品業界の企業や働く理系プロ人材方に向けて、働き方の多様化について様々な角度でお伝えする企画となっております

7月28日号の食品化学新聞に「RDサポート新しい働き方への招待<第6回/全6回>」が掲載されました。

第6回は亀田製菓(株)代表取締役会長CEOジュネジャ・レカ氏と、RDサポート代表取締役大澤の対談記事となります。

米菓最大手の亀田製菓㈱代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)に6月14日の株主総会において就任したジュネジャ・レカ氏は、企業内各部署のイノベーション、旺盛な新商品開発、プラントベースドフードと米粉パン等の食品事業の拡大、本格的な世界進出等を目論む。今回はコロナ禍での事業現状やこれからの経営方針、働き方等について、対談を行った。

コロナ禍での事業について

大澤 この度は代表取締役会長兼CEOにご就任おめでとうございます。

ジュネジャ 有難うございます。

大澤 コロナ禍を通して事業のご状況はいかがでしょうか。

ジュネジャ 巣籠り需要の中、「亀田の柿の種」が大変売れました。しかし、とよす(大阪府池田市)という会社はデパートに高級米菓を、アジカル(新潟市)はお土産用の米菓を売っていましたが、特にコロナ初年度は売上が大きく下がってしまいました。このように事業ごとにギャップがありましたが、会社全体の業績としては好調です。昨年は原料高で収益に影響がありましたが、前年並みに売上はありました。個人的には2020年に私が亀田製菓に入社してからの2年半は海外出張も制限され世界各地にあるグループ会社への訪問もままなりませんでした。オンラインでもマスクを着用していますから、社員の顔が見られないのが残念でした。

大澤 当社も先日社員総会を行いまして、ここ2年はオンライン開催でしたが今回はオンラインとリアルを併用した、ハイブリッド型で開催できました。

ジュネジャ コロナ禍で仕事ができないわけではありませんが、やはり大きな仕事は難しいですよね。決まった商品を売ることはできますが、本当に新しいことをやるとなったら、お客様や取引先に説明しなければいけません。それを対面でできず中々困難でした。会議は決まった時間内に決まったメンバーでアジェンダに沿って行われ、飲み会や交流会もできず、何を考えているか本音も掴みづらいですね。効率的と言えばそうかもしれませんが、本当の商売というものは相手を知り、商品に込めた魂を伝えるもの。そのようなパッションを伝えることがコロナ禍では困難でした。

出口が見える研究を

大澤 御社の研究開発の取り組みについて教えてください。

ジュネジャ 少し古い話になりますが、私は1989年に大学院で博士号を取得しました。当時アメリカの会社に就職が決まっていたのですが、ご縁があり太陽化学㈱に入社しました。外国人に何ができると言われながら、テアニンなどゼロからさまざまな製品を開発してきました。テアニンを開発した時は生化学辞典にも載ってなかったのです。レギュレーションから安全性確認から全て自分で作りました。今では世界中で製造していて、臨床試験も世界で幅広く行われています。基礎研究ができていたから、テアニンを開発することができたと思います。
私は研究員には出口を見つけて研究を始めましょうと言っています。研究のための研究ではなく、誰のために研究するのか、何のために研究するのか、つまりパーパスです。私はこれまでに200以上の論文と3冊の本を書いていますが、重要なのは論文の数ではありません。研究者にとってはネイチャーに掲載されたか、サイエンスに掲載されたか、何番目に載ったかが重要で。社会へのインパクトファクター(影響度を表す指標の一つ)が大事なのです。

商売へのイノベーション

大澤 会長に就任されて改めてイノベーションについてどのようにお考えですか。

ジュネジャ 株主総会でも申し上げたのですが、私はグループ含めすべての会社にイノベーションを起こします。私のイノベーションは技術に関することだけではありません。商売のイノベーションです。このコロナ禍にあって、どういう製品を創り上げるか。そのためには購買と技術とマーケティングとお客様との連携、その輪を繋げる研究も重要です。イノベーションとは研究だけではありません。すべての部署のイノベーションです。それが私の経営方針です。そうすることで、世の中にない新しいもの、付加価値のあるものが生まれます。
私は講演でよく、亀田製菓を知らない方は手を挙げてくださいと聞きます。そうすると、手を挙げる方は一人もいません。本当に一人も。亀田製菓は消費者に広く知られている会社です。そのような会社に入社して誇りに思っていますし、会社のトップになったことはとても光栄に思っています。亀田製菓から新しく価値ある商品をどんどん発信していきたいと考えています。

健康と環境
ジュネジャ 今、私たちは2つのテーマに取組んでいます。一つは「健康」、もう一つは「環境」です。最近は健康のための「減塩」製品に取組み、「ハッピーターン」や「亀田の柿の種」ではおいしさそのままに塩分30%オフを実現しました。糖質制限製品や乳酸菌を配合した製品など健康に寄与する製品開発もしています。包装も工夫し、環境面への配慮を行っています。

大澤 コロナで日本の消費者の健康意識は高まりました。インテリジェンスも上がりましたし、そこは追い風ですね。

ジュネジャ 確かに健康意識は高まっていますね。テーマである健康と環境とプラスして“美味しさ”は私たちの得意技です。米菓の生地や食感、美味しさ、プロの技を持っています。
当社は今年3月から、プラントベースドフードのブランド「JOY GREEN」および国産米粉を主原料にしたアレルギー特定原材料等28品目不使用の米粉パンブランド「Happy Bakery」、米由来乳酸菌のブランド「Rice BIO」と新たに3つのブランドをグル^プ会社とともに立ち上げました。
JOY GREENの「大豆と玄米のベジスライス」であれば、100g中、たんぱく質58.0g、食物繊維11.1g、コレステロールはゼロで、味や食感を工夫しています。また、「Happy Bakery」の米粉パンはグルテンが入っていません。グルテンが配合された米粉パンはありますが、グルテンが入ってないものは少ないです。私たちは米のプロフェッショナルであり研究を進めていますので、そこから生まれた技術です。「Rice BIO」の米由来乳酸菌は加熱殺菌体なので、使いやすく、様々な食品に配合できます。「植物性乳酸菌K‐1」は便秘の改善に効果があり、機能性表示食品の実績もあります。「同K‐2」はアトピー性皮膚炎などのヒト試験も実施しています。いずれも米由来ですから、お米の凄さを感じますね。

大澤 お米の可能性も御社の開発力も素晴らしいですね。

ジュネジャ 有難うございます。加えて防災備蓄食品を手掛けているグループ会社の尾西食品(東京都港区)から日本災害食認証を取得した「アルファ米ごはんシリーズ」や「おにぎりシリーズ」等を販売しています。おにぎりシリーズは製造月から5年6カ月の長期保存が可能で、お湯か水でおにぎりが出来上がります。電気もガスもないところで、水だけでおにぎりを作ることができるのです。最高の技術です。アウトドアでも便利ですし、宇宙日本食としてもJAXAから認証されています。保存期間が長く、世界中で災害の時に食べられるものです。これらの製品を世界に届けていきたいと考えています。

グローバル展開
大澤 グローバルな展開も進めていきますか。

ジュネジャ 世界に飛び出し、「グローバル・フード・カンパニー」となること。これが亀田製菓グループが掲げる大きな目標です。マーケットは日本の1億人ではなくて、世界人口80億人です。当社は食と米菓を通じて世界にもっと出ていこうと考えています。そのために研究は大切です。研究部門をもっと強化して大きくし、良い商品を開発したいのです。「亀田の柿の種」や「ハッピーターン」という定番のロングセラー商品のおかげで、盤石な地盤があります。もっと多くの方に、世界中の方に亀田製菓を知っていただき、そして、亀田を感じていただき、愛していただきたいです。

大澤 世界に向けた今後の事業展開がますます楽しみです。

ジュネジャ 売り上げを内外で1600億円に伸ばしたいと考えています。今は850億円ですから倍近いですが、海外で徹底的に展開したいと思っています。そのためにも大事なのは、やはり新商品のイノベーションです。新商品を沢山開発したいですね。もう一つは人です。チャレンジする人と組織が大事です。会社として付加価値のある商品を生まなければなりませんので、M&A、アライアンス、オープンイノベーションなどあらゆることを進めていかないと。

オープンイノベーションについて
大澤 オープンイノベーションにおける課題はありますか。

ジュネジャ オープンイノベーションは大好きですよ(笑)でも課題はあります。オープンイノベーションを進めるためには、守りに入らないことが大事です。日本の会社の課題は「マル秘」ですね(笑)どの企業にもマル秘情報がたくさんありますよね。私はマル秘ではなく極力オープンにすることが大切だと思います。オープンにしたら、相手もオープンになります。守りに入ると自分たちの世界だけになってしまいますから。

大澤 当社では研究人材のシェアリングビジネスを行っているのですが、研究開発分野における外部人材の活用についてはどのように思われますか。

ジュネジャ 大歓迎です。これからもっとオープンイノベーションを行い、様々な人材や企業、大学とアイディアを持ち寄り、商品開発や研究を推進していきます。会社に対して収益を生むことであれば積極的に取り組んでいきたいと思います。自社の世界だけでの研究は枠を超えられませんので、枠を超えていくことを考えましょうと社員には伝えています。

大澤 オープンイノベーションの取り組みがうまくいかないという企業の声も多く聞きます。

ジュネジャ やはりいざとなると守りの意識が働くのでしょう。最初は誰もが熱意を持って取り組みますが、どこまでオープンに取り組むかを模索するうちに結局最後に結論がでないパターンが多いと思います。テーマは段々難しくなり、最後に出口が見えなくなることが多いですね。
それを打破するためにはやはり、マネジメントが重要で、リーダーシップを誰が執るか、そこに尽きるでしょう。日本は攻めより守ることが得意で強いです。企業である以上、守るべきところは知財で守らねばなりませんが、オープンイノベーションの実現にはやはり「オープン」であることが重要で、そのマネジメントができるリーダーが出てくることが大事ですね。そういうリーダーの登場を楽しみにしています。


食品化学新聞2022年7月28日号より