株式会社ダンテ 代表取締役 瀧本陽介氏インタビュー
今回企業インタビューにご協力いただいたのは、株式会社ダンテ代表の瀧本陽介氏。
株式会社ダンテは、世界初の精液成分の郵送検査を行うベンチャー企業として2017年に設立。血液や尿、唾液といった検体に比べ、これまでほとんど注目されてこなかった男性の精液という抗体を活用した検査を事業化。男性妊活のための検査キット「バディチェック」を開発し注目を浴びています。”世界一の男前企業”を目指し、まだまだ未開拓分野である精液成分研究を軸として独自の研究を進めています。
そんなダンテ社に今回RD LINKを活用いただきました。そしてRD LINKのエキスパートが共に開発に携わった商品が満を持して2021年8月30日に発売となりました!エキスパートとどのように仕事を進めてきたのか、開発秘話も交えながら伺ってきました。
インタビュアー:RD LINK三浦
プロジェクト内容
『男性向け妊活サプリメントの商品開発』×『サプリメントの商品開発エキスパート』
3年を費やし自社開発した素材を使った、男性向けの妊活サプリメントの発売に向けて商品開発を進めていきたい。自社の事業領域である検査キットとは異なる市場への進出、また未開拓市場である男性の妊活という分野に向けた新たな商品となるため、PR戦略を含めた商品開発が必要となることから、サプリメント開発の知識が豊富な方に発売までのサポートを求めてRD LINKに依頼。
本商品は『ファミリープログラム』という商品名で8月30日に医療機関とECにて発売開始。
エキスパート支援内容
大手メーカーでサプリメントのマーケティングに27年関わったご経歴を持ち、現在は個人事業として化粧品・美容機器・サプリメントの広告・販促に関するコンサルティング及び業務サポートを行うエキスパートをアサイン。9ヶ月にわたり毎月4回の打ち合わせを行いながら、商品のコンセプト設計からネーミング、パッケージデザイン、その後の販売戦略立案・実行までを伴走型で支援。
RD LINKへの依頼の経緯
今回RD LINKを活用いただいた経緯をお聞かせください
実はこの商品はもともと食品や健康食品などのメーカー企業に作っていただくことを考えて動いていました。それが色々と苦戦しまして・・・結果自分たちで商品化することを決めたという背景があります。
弊社は検査会社のためサプリメント開発の経験がなく、単価設定の仕方やパッケージデザイン、薬機法について、また在庫を抱えるという仕組みなど分からないことだらけでした。
そこでRD LINKさんのシステムを知り、なんとかエキスパートの方にサポートいただきたいと考えて依頼しました。
もともとはメーカーさんにお願いする予定だったとは知りませんでした
そうなんです。もう少し背景をお伝えすると、弊社は妊活に向けた男性向けの検査キットを開発販売しています。それ自体のニーズはやはりあって、多くの方に検査を受けていただけています。
今までに無かった精液成分の検査ができるようになったことで、次の課題として、検査結果に対する何らかの解決法を提供する必要が出てくるわけです。それは治療薬かもしれませんしサプリメントかもしれません。
私たちは、大学や医療機関と共同で精液成分を研究してきたことで、男性妊活に重要な成分を明らかにしてきました。そこで、その成分を原料に解決策を一緒に作りませんか?と各社にお声がけしてきたわけです。
妊活は、生活習慣改善や美容促進に比べて期間やターゲットが限定されているので、ライフタイムバリューで見ると市場としてはそれほど魅力的ではないのでしょうね。今でこそ夫婦二人の妊活が当たり前に言われる風潮がありますが、当時は男性妊活への関心も低く、なかなか一緒に取り組んでくれる企業が見つからなくて。
でも弊社としては、この成分の発見は日本の不妊問題の解決に繋がるはず!という思いで研究を始めて、産学連携で細胞実験から動物実験、ヒト臨床試験まで一つずつ開発を重ねてきました。ここまでに3年ぐらいかかっています(笑)
え!3年ですか!
そうです。それでエビデンスも取れて非常によい素材が開発できたわけですが、さてどのように商品化しようか、どのように売れば良いのか、というフェーズでRD LINKさんに出会ったというわけです。
では開発としては比較的終盤でエキスパートを活用いただいたのですね
段階としては商品化して売るということを社内で決めたフェーズでしたね。売ることは決めたけれど、商品名も決まっていない、パッケージデザインも決まっていない、OEMメーカーさんもまだ決まっていないという状況でした。
エキスパートが入って変わったこと
3年間開発に邁進してこられたダンテ社のチームの中に外部の人材が入ることについて混乱などはありませんでしたか?
いえ、混乱よりもむしろ司令塔が入ったような感じでしたね(笑)
今回ご紹介いただいたHさんの経験やスキルも素晴らしかったのですが、何より人間性の素晴らしさが大きかったと感じます。
外部から入る方が現場とうまくいかないというのはよくある話だと思いますが、それは現場としてはこっちをやりたい、でも専門家の方は自身の経験上こっちをやりなさいというトップダウンの指導者パターンの方だとギャップが生じます。
今回来ていただいたHさんはそうではなかったので、みんなが頼っている感じでしたね。指導というよりは、我々の話を聞いて整理してくださいました。
整理とは?
例えば、会議でも我々がああでもないこうでもないと意見を交わすわけですが、Hさんはそれを聞いたうえで「私はこう思うよ。ここはこういうことじゃないかな。」と整理をしてくれる。
成功法を教えるのではなく、現場の思いや状況を把握して整理して導いてくれるというイメージです。
この「整理」ができない人は多いと思いますし、私も他の企業に入ってできるかと言われたら多分できません(笑)ですので、そこがとてもありがたかったなと思います。今回のHさんはその「整理」のスキルが非常に高い方でしたね。
Hさんとの働き方は具体的にはどのような感じだったのでしょうか
毎週1回オンラインで全体会議に参加いただき、簡単な質問などはチャットや電話で随時といったコミュニケーションが主でした。それ以外にも商品取材などに同席いただくこともありましたね。
コミュニケーションにタイムラグがあったり意思疎通に困ることなどはありませんでしたか
全く無かったですね。グループチャットでの我々のやり取りも見ていただける状態にしていましたので、週1回の会議までの背景も理解いただけていたと思います。
司令塔という表現がありましたが、Hさんが入ったことでどのように変わりましたか?
そもそも我々が何も気付けずに走っている状態だったので、Hさんがいなかったら恐らく全く違う商品になってしまっていたと思います(笑)
開発秘話になりますが、今回の商品は夫婦の妊活をサポートするサプリというコンセプトで『ファミリープログラム』という商品名で発売となりましたが、当初は男性向けサプリメントというコンセプトのもとブーストサプリという商品名の案がありました。そのまま進んでいたらパッケージも赤色だったでしょうね(笑)
それは全く違う商品イメージですね
他にも味作りの時が分かりやすいのですが、味見本がたくさんある中で、弊社のメンバーはみんな1口飲んでおいしい味を選ぶわけです。でもHさんに、サプリメントは継続して飲んでもらうことが前提となるため選び方が違うと指摘いただきました。
その視点で考えると、これは甘すぎる、これは味が強すぎるなど別視点で味を考えられるようになり、今実際に毎日飲んでいますが、本当にこの味にして良かったなと胸を撫でおろしています(笑)
なるほど!単にできなかったことができるようにということではなく、自分たちだけでは気付かなかった問題に気付いて導いてくれたという状態なんですね
消費者側の意見をまず教えていただけるのはとても良かったですね。
どうしても弊社のような、特に研究に従事してきた者は研究の成果やすごいポイントを伝えたいと思うし、伝えなければという気持ちが強くなってしまいます。まさに顧客を見失うという状態です。
クレアチンの構造は・・・、エルゴチオネインンの作用機序は・・・、精子がまっすぐ動くメカニズムとは・・・、といくら伝えても、消費者の方にとっては「え?」となりますよね(笑)
思いが強くて顧客を見失う・・・お気持ち分かります(笑)
我々も商品の良さをお伝えするのですが、それをHさんが消費者側に立った意見で要所要所でお伝えいただけるので、そこで我々も初めて消費者側の考え方を商品に取り入れることができました。それを発売前にできたということは非常に大きいと思います。
消費者の視点を取り入れるというのは商品開発の進め方としては一般的だとは思いますが、実際にはなかなか難しい。こういう第三者的な意見を取り入れる機会があったからこそ気付きが得られました。
素晴らしいエビデンスがあって、高度な技術で作られた商品が必ず売れるとは限らないですよね。他の企業様の話を聞いても、消費者にどう理解してもらいどう売っていくか頭を抱えているところは多いと感じています。ちなみに、Hさんのサポートの範囲はどこからどこまでだったのでしょうか。
商品開発としては、コンセプト設計、ネーミング、パッケージデザイン、OEMメーカーの選定、味作りなど形になるまでの全般と、販促プロモーションにも関わっていただいています。
弊社はこれまで販促に大きく広告を活用することは無かったので、今回広告代理店に依頼するにあたり、どのような視点で代理店を選べば良いのということも教えていただきました。
他にも商品撮影など実践的にその現場でしか教えられないといった、Hさんの経験上で重要だと思うフェーズには同行いただけ、現場で色々アドバイスやサポートをいただきました。
商品に見合った魅せ方や代理店の選び方などは経験しないと分からないことですよね
はい。どんな仕事でも、情報を知らなければ知らないほど、つまり情報格差があるほど、相手に言われるがままになってしまいます。きっと今回も我々だけで進めていたら、提案されるままにお金を支払うだけの流れになってしまっていたと思います。
今回の『ファミリープログラム』は、精子の動きや成分という一般の人がまだよく分かっていない分野での新しい価値や情報を発信していく必要があったので、ただ商品を販売するのではなく成分の認知とサプリメントの認知という段階を経たPR戦略を学べました。
発売がとても楽しみですね!
だいぶドキドキしますけどね(笑)でもすごく良いものができたと思っています。
RD LINKの良さと外部人材活用の留意点について
ダンテ社では過去に外部人材を活用した例はありますか
商品開発分野では初めてです。営業機能を強化するためにサポートいただいたり、経営面のメンターとして入っていただいたりはしています。ただ、人づてに探しても相手の方も既に業務を抱えていたりするので急に弊社の業務を受けていただくのは難しいと感じています。
自治体や中小機構など行政機関を利用したこともありますが、こちらはマッチング精度の点で難しいですね。特に商品開発などの分野では、Hさんのような実践的な支援まではもらえないですよね。
RD LINKを実際に活用してみていかがでしたか
今回の弊社のケースは成功事例だと思いますし、とても満足しています。いかにニーズに沿った人材をご紹介いただけるかという点では、やはり民間企業ならではだと思います。
具体的にRD LINKのどんなところが良かったですか
やはり食品や化粧品業界のR&D人材に特化しているという点や、コンサルタントがマッチングしてくれるという点は良いですね。
あと、大きなメリットとして感じたのは、RDサポートさんに仲介役として入っていただけるので、エキスパートの方との関係性を壊さずにプロジェクトが進められるという点ですね。
企業と外部人材の方が直接やり取りする場合、業務内容や報酬の交渉など、お互いに言いにくいことが必ず出てくると思います。人と人ですので上手くいくこともあれば、なかなかそうはいかないこともあります。
間にRDサポートさんがいることで、お互いが嫌な思いをせずに相談ができるというのはすごく良いと思います。
外部人材に求めるスタンスなどはありますか
先ほどHさんの例にも挙げましたが、教えてあげるという指導スタンスではなく、専門知識を活かしながら一緒に整理をしていただけると良いなと思います。
企業として外部人材を受け入れる際に留意したほうが良いことはありますか
弊社はスタートアップベンチャーなので熱量で動いています。今回の場合はその熱量をHさんと共有できたことが成功要因でもあると思っています。
お金をお支払いするのでよろしくお願いしますと指導員的に来ていただくのではなく、一緒にワクワクしてもらえるか。
今回はメンバーが私に怒られながらも分からないなりに頑張って働いている姿を見て、このメンバーをなんとかしてあげたいと思っていただけたのではないかと思います。
司令塔という話しがありましたが、エキスパートの方自身が一緒に働いていて楽しいと思っていただけたら積極的に提案もいただけ、良い関係性になっていけるのだと思います。熱量をしっかり共有することは大事だと思いましたね。
また、あくまでも主体は自分たち企業にあるということを忘れないことも大事ですね。
未経験の領域を経験値のある方に支援いただくと、その方の意見が正しいと思ってしまいがちです。でも必ずしもそうではない。未経験領域だからとエキスパートに頼りきりになるのではなく、ゴールに向けて自分たちで主体的に考えて動くことが大事です。
今回新しい価値を生む商品の開発でしたが、秘密保持への不安はありませんでしたか
特にはありませんでした。契約前のRDサポートさんとの3者面談の際に信頼できる方だと思ってお願いしましたので、そこから先、弊社が情報を開示しなかったらHさんにもエキスパートとしてフルに活躍していただけませんよね。
これまでの検査キットでもOEMメーカー各社に相見積もりを取る場合には、コンセプトなど全て話すわけですので、リスクはそれとほぼ同じだと思います。研究も大学との共同開発でしたし、一部食品メーカーさんにも入っていただいていましたしね。
R&D人材の複業について思うこと
R&D分野の人材が複業することについてどう思いますか?
これは個人的な見解ですがR&D分野の方がエキスパートとして複業で働くのであれば、今回のHさんのように、企業である程度キャリアを積んだミドルやシニア層の方がマッチしやすいのかなと思います。
R&Dの場合は、例えばデザイナーが自社以外のデザインの知見や経験値を外部に求めてする複業とは少し質が異なると思います。
どうしても受け入れる企業側としては、複業人材に研究や開発の本質的に重要な部分はお願いできませんので、若手で他の企業に勤めている方が来てくれたとしても、その方にとってキャリアアップになるような仕事を提供できないと思います。
そうなると今回のように、新規事業推進の一部を担っていただく形での依頼になることが多くなると思いますが、その場合はチームやプロジェクトをマネジメントした経験や、関係各所とスムーズにやり取りするスキルなど、専門分野の知識以外のスキルも必要となります。
そのため若手のR&D人材の方の場合は、まずは自身の専門分野を深めながら、それを人に伝える力などの対外的なスキルを磨いておくと良いのではないでしょうか。
R&D人材の方は正しいことを正しく伝えるというスキルには長けていますが、お客様を見て話すということが苦手ですよね。だから技術営業という仕事があるわけです。営業がお客様を見て話している隣で技術提案サポートという立場になるのではなく、一人で両方できたら人材として非常に希少価値が上がると思います。
複業の場合、弊社のようなベンチャー企業や中小企業では経営層と話す場面も出てきますし、そういった対外コミュニケーション力を身に付けながら、キャリアを積んだ後に外に出てきていただくと良いのではないかと思います。
まずは自身の専門知識や経験を徹底的に深め、横展開できるスキルを磨くというのは、特にR&D分野には大切な視点かもしれませんね。
ダンテ社の今後の展望
最後にですが、ダンテ社の今後の展望や目標を教えてください
弊社はサプリメントメーカーとして拡大したいわけではありません。検査が主たる業務であり、今回は最初にお話しした経緯により自分たちでサプリメント開発に挑戦したわけです。
弊社の検査キットで精子の動きだけでなく精液成分の栄養状態をチェックしてもらい、その方に合った妊活を提案したり、早い段階で医療機関にかかるきっかけにしていくことができたら良いと考えています。
自分たちで全てをやろうとは思っておらず、弊社は精液成分研究の知見を持っていますので、多くの方と協力してその解決策を作りたいんですよね。そして子どもを授かりたいのに授かれない夫婦を減らしたいと思っています。
妊活に関する商品のライフタイムバリューは短いかもしれませんが、社会的な意義は非常に大きいですし、少子化は日本だけの問題ではありません。中国は20年後には日本より高齢化社会になります。コロナ前までは中国から日本に不妊治療に訪れる方が多くいました。市場は日本だけでなく世界に広がっていると思います。
ぜひ世界に向けた少子化対策に取り組んでいきたいと考えています。