【対談】研究開発組織の形とR&D人材のキャリア展望を教えてください/太陽化学株式会社
コロナ禍の中での業況や研究開発組織の在り方はどのような状況なのか。事業や組織の今後の成長戦略やR&D分野の人材のキャリアの展望を、弊社代表の大澤が企業の経営層に直接聞く対談企画!
今回はRD LINKのエキスパートも活用いただいている太陽化学株式会社の取締役でありニュートリション事業部長の佐藤則夫氏にオンラインで対談いただきました。
企業紹介
太陽化学株式会社。1946年創業。名古屋証券取引所第二部上場企業。伝統的な天然素材から、最先端技術を応用した新規素材まで様々な食材・工業用途向素材を取り扱うと共に、研究開発型企業として、機能性食品素材の創造に取り組む素材メーカー。
コロナ禍の業況
大澤:本日はお時間をいただきありがとうございます。今回は対談という形になりますが、ぜひフランクにお話をお伺いできればと思います。
佐藤:はい。素晴らしい対談になるように編集お願いします(笑)
大澤:早速ですが、このコロナ禍で状況が厳しい企業様も多いのですが、貴社はコロナ禍の中での事業をどう見ていますか
佐藤:これだけ未曾有の状態ですと、今後どうなっていくかということが明確には見えないですよね。弊社の業績は幸いにも昨年とほぼ変わりません。ただ海外展開に注力してきた事業などでは明暗が分かれているようなものもありますね。
これからアフターコロナやポストコロナになってくるとまた状況がどうなるか計りかねる部分もありますが、私の属しているニュートリション事業部では発酵性の食物繊維であるグアーガム酵素分解物や抗菌効果のあるカテキン、コロナ禍の生活で問題視されているストレスや睡眠の質向上といったテアニンなど、偶然ではありますが今の状況に合った素材を揃えていますので、そのあたりが国内外で堅調に伸びてきています。
大澤:トレンドとして、欧米で特に伸びている素材は何ですか?
佐藤:全般的に伸びていますが、アメリカではテアニンやグアーガム酵素分解物は引き合いが多くなっています。他の機能性素材との組み合わせで企画することも多くなっていますね。
大澤:アメリカで加工食品というとサプリメントとかですか?
佐藤:そうですね。あとはメディカルフーズと呼ばれるような、食品に近い形の機能を持った素材としてファイバーや各種目が使われています。
大澤:そうすると海外での業績が御社の全体の事業の業績をけん引しているということでしょうか。
佐藤:そうですね。特にニュートリション事業部では海外の伸長が大きいです。
大澤:あまりマイナスなお話をするのもどうかと思うのですが、コロナによる負の影響はいかがですか
佐藤:どの企業様も同じだと思いますが、外出制限により外食系の素材は厳しい状況ですね
大澤:確かに私も外食の機会はめっきり減りましたね。メディアでは飲食店の苦境が報じられていますが、外食など業務用関連の商材を扱う企業様も厳しいですよね。
時代に合った研究領域へのシフトを強化
大澤:各事業部の明暗があるというお話でしたが、御社では事業全体の改革に着手されていたりもするのですか。
佐藤:これまでも時代と共に事業を見直し入れ替えながら形となるものにシフトしてきてはいますが、コロナの影響で事業改革が促進されている部分はありますね。こういった危機的な状況に直面して改革スピードを早め、研究領域についても時代に合ったチャレンジグな方向にシフトする動きを強化しています。
大澤:時代に合ったとは?
佐藤:これまで健康や病気を気にしてこなかった方々が、コロナ禍で自身の健康状態を意識するようになりました。それにより予防のための食品を摂取するという傾向も強くなっていますので、弊社としては今後も予防や未病の領域での素材開発や臨床試験に注力する予定です。更にますます市場の変化も起こっていくと思いますので、注視して取り組んでいくつもりです。
大澤:コロナ禍の生活でコンディションの悪化が取り上げられるようになっていますよね。我々もよくコンディションをテーマでオンラインセミナーを開催しています。最近ではメンタル不調や目の疲労、身体の疲労、睡眠などを取り上げました。
佐藤:弊社でも機能性表示食品の制度が発足して最初に取得したのが睡眠の質を上げるというテアニンでした。テアニンの需要は順調に伸びてきましたが、ここにきて更に多くの需要をいただいていますね。テアニンについては睡眠の質向上・ストレス以外にも認知機能に関する臨床データも出てきましたので、そのあたりにも注目が集まっていますね。
大澤:テアニンに認知機能のデータが出たとは存じませんでした!高齢化社会でもありますし、認知機能のマーケットは非常に大きいですよね。
佐藤:そうですね。薬でなかなか治療ができない領域ですので、そのあたりも食品で貢献できたらと思っています。
大澤:コロナで加速しているという点でフレイルがありますが、フレイルの市場としてはどのようにお考えですか。
佐藤:フレイル領域は従来からあったのですが、フレイル診断なども始まり未病にフレイルが指定されました。認知と同じように特効薬と言われるものがない中で、運動や食事でフレイル予防をしていくということは非常に社会的意義もあると考えていますので、弊社としては今持っている素材を組み合わせて臨床を進めているところです。
大澤:コロナのワクチン接種率が上がることによって、来年以降状況が変わってくると思います。佐藤さんのニュートリション事業単体で結構なのですが、ポストコロナに向けての成長戦略についてお考えはいかがですか。
佐藤:先程の話とも重複しますが、コロナにより健康というものについて誰もが再意識したと思います。またコロナワクチンも含めて予防の大切さも世界中で意識されたと思いますので、その意識の中で我々の考えているような食品で未病・予防という領域はさらに大きくなると思うんですよね。
大澤:先ほどアメリカのマーケットが御社の事業にかなりプラスに貢献しているという話がありましたが、もしかしたら医療制度の影響もあるかもしれませんね。アメリカは民間保険なのでヘルスケアに対する知識が高いですが、日本は皆保険なのでセルフメディケーションに対するモチベーションが低いというのも関係ありそうですね。
佐藤:その違いはアメリカに行くと非常に感じますね。
大澤:人から聞いた話ですが、アメリカはフィットネス料金が直談判というところも多いみたいですね。自分のプログラムに合わせて金額をセットすると聞きました。日本も予防に関する知識や意識は確実に上がっていると思うのですが、それに対する商品開発に既に取り組んでいるのでしょうか。
佐藤:そうですね。私たちが想像しているよりも更に市場の拡大が加速されるという風に考えていますので、常に前倒しで研究のチャレンジをやっていきたいと思いますね。
良いものをじっくり作る、では間に合わない
大澤:コロナ前と今のウィズコロナで、御社の事業戦略や組織においての変化はありますか
佐藤:機能性素材については日本で注目される前からやってきたのですが、その頃は競合企業も少なく、時間をかけて良いものをじっくり作っていこうという長期スパンで取り組んでいました。今は研究メーカーも増えてきて10年20年スパンで一つの商品を作るという状況がなかなか受け入れられないようになってきましたよね。
弊社としては引き続き長期的な研究開発も行っていきますが、組織として社内の研究人材だけでなく、広くアカデミアや研究機関やパートナー企業と取り組むオープンイノベーションを促進することによって、開発の幅を広げたりスピードを上げられる組織づくりを考えています。
大澤:御社の先進的な取り組みをずっと拝見しています。AOU研究会(今は抗酸化・機能研究会)という若手の基礎研究者のプラットフォームを作られて、非常にうまくwin‐winの関係を築かれているなと感じていますが、それもひとつのオープンイノベーションと捉えて良いでしょうか。
佐藤:そうですね。研究会については我々が個別研究を深くするほどのサポートはさせていただいていませんが、色々な方が出会える機会を作ることによって弊社とお客様以外でも協業やオープンイノベーションが進むのではないかと考えており、微力ながら継続させていただいております。
大澤:いえいえ、本当に毎回盛大に開催されていて素晴らしい機会の提供だと思います。最近では大学発ベンチャーも多く立ち上がっていますよね。私もいくつか支援させていただいておりますが、そういうベンチャーとの取り組みも進んでいますか。
佐藤:我々もベンチャーとの取り組みは積極的に推進したいのですが、技術が初歩の段階のベンチャーが多い中で、どこと組んだらよいのか判断が難しいところがありますね。なかなか目利きができないといいますか・・・。まぁ、最終的には“少々の失敗はしてもいいか”というところになってきますので、会社が許容できるところまで見極めた段階で積極的にやっていきたいと思っています。
素材開発のオープンイノベーションは難しい
大澤:オープンイノベーションについて、御社のHPでも募集を拝見したのですが、状況はいかがですか。
佐藤:お恥ずかしながら、まだここから本当のオープンイノベーションに繋がっているものはないんですよ。なかなか難しいのかなと感じています。どちらかと言うと現状では弊社から研究機関やアカデミアに持ち込んでいる状況ですね。
大澤:そうなんですね。
佐藤:多分マッチングが難しいんじゃないですかね。私どもの内容はニッチでわかりにくいので。そういった意味では今RD LINKさんからご紹介いただいている方は人脈も豊富でいらっしゃるので、そこも含めてオープンイノベーションをお手伝いいただけるのではないかと思いますね。オープンイノベーションも流行りに乗って、始めたのは早いんですがなかなか形にならない(笑)
大澤:弊社もですが、イメージ先行で進めて中身が思うようについていかないというのはどこの企業様でもありますね。特に御社のようなニッチな領域では、産学連携でバックアップしてというところはありますが、内製で形を作るのはやはり難しいかなと思いますね。
佐藤:わかりやすい最終商品を作っていらっしゃって、そこに付随する研究テーマや開発テーマを集める場合は非常に多く集まってくると思うのですが、私たちのようにマイナーな企業でマイナーな技術をオープンイノベーションで集めようとするのは非常に難しいのではないかと思いますね。
大澤:これから素材開発のベンチャーも生まれてくると思いますので、今後はもっと活発になることも期待したいですね。
佐藤:一番ハードルが下がったのは、今まで直接会いに行かないとできなかったようなことが、オンライン上で気軽にミーティングができるということですね。この変化はオープンイノベーションの促進にもつながるのではないかと思いますね。
人材戦略の過渡期。外部エキスパートの活用が有効
大澤:現在RD LINKのエキスパートが参画していますが、社内でのイノベーションに対する活性化について、研究開発分野からお聞きしたいのですが、こういう事業をやりたいとか、新しい領域でのチャレンジ、新しい制度的なチャレンジなどの状況はいかがでしょうか。
佐藤:やはりチャレンジングなテーマに研究で取り組もうとした際に、社内人材にエキスパートがいないということがあります。弊社の基盤技術や基盤事業についての人材は社内に多くいますが、もう少しコアの部分から離れたところで何か取り組もうとした際には、当然社内だけでもできるとは思いますが、時間を費やしたり、回り道をしてしまうと思うんですよね。
今回のようにRD LINKさんからピンポイントで深くやっているエキスパートを紹介いただけるというのは、私どもとしては今後の色々なテーマを進めるにはありがたいサービスだと思っています。
大澤:ありがとうございます。そう言っていただけると大変嬉しいです。今御社全体でR&D人材の比率はどれくらいなのですか。
佐藤:ざっくり4分の1ですね。本社と東京にいる者で130名ほどいます。他にも検査事業を外部に委託していますので更に比率としては多くなると思います。
大澤:業界の中でも比率としては多いですよね。
佐藤:そうですね。素材メーカーとして他社と比較して特徴的な部分だと思います。
大澤:太陽化学社の場合、ジョブローテーションも積極的だったと思うのですが、現在の組織開発としてはどのような状況ですか。
佐藤:実はそのあたりには課題感も抱えています。弊社の方針としては一括採用の中でジョブローテーションをしながら多能な人材に育てていくというスタイルで何年もやってきました。基盤技術に関してはほとんどの研究員が学び、研究として様々な能力を付けていく必要があります。
しかしデメリットとして、専門性を究めるのに非常に時間がかかるわけです。現在は一つの研究を究めることによって事業価値や研究価値を出してくる企業様が多い中で、弊社としては今そのあたりのジレンマが一部ありますね。
大澤:ジョブローテンションは短いスパンで行うのですか。
佐藤:5年に一度ほどですかね。色々な経験をしてから元に戻ることもあります。
大澤:場合によっては大学で学位を取っている人材が営業にいくということもありますか。
佐藤:若干名いますね。
大澤:そうなんですね!それはある意味強力ですね。他社ではあまり聞きません。そのよう中でも、専門性をいち人材に対してどう深めていくかというところで、制度的に工夫しているところや、もしくは必要だと考えている人事制度があれば是非教えてください。
佐藤:制度としては学位を取るために会社から派遣して学位を取得してもらい、その過程で専門性を高めてもらうということも始めています。積極的に進めていたジョブローテーションについても、今はある程度の年齢に達した時にはもう少し緩やかにするなど、柔軟に今の世の中に応じた形で変えようという、まさに過渡期ですね。
過渡期で生じている専門人材の不足に関しては、オープンイノベーションや今回のRD LINKさんからの人材で対応しているという状況です。現時点では、そういった外部人材の活用も人材戦略の一環として考えています。
これからのR&D人材に必要なこと
大澤:社内外問わず、研究開発人材としても多様性を求められる中で、佐藤さんが考える最も必要な素養は何だと思いますか。
佐藤:イノベーティブなことができる考えを持っているかですかね。こういう時代の中では、それぞれの一つの分野を深くスピードも早く極めていくということが必要ですし、研究人材がオープンイノベーションを積極的に行っていくことも必要ですので、色々な分野と融合ができるような考えを持つことは重要だと思います。
知識が豊富ということと、新しいものを生み出せるということは別物です。従来のように何でもできるというよりも、一つの分野だけで良いので“これが深くできる”という人材も必要です。これまでにやっているようなことは大体どこの研究でもやっている部分ですが、新しいものを作るというのは非常に多くの困難も伴います。それを最後までやりきる心を持っていることがこれからの研究開発人材には求められてくるのではないかなと思います。
個別スキルで言うと、語学力を含めたコミュニケーション力ですね。お客様も国内外に広がっているので、共同研究開発を進めるには、コミュニケーションが取れるような語学力は重宝します。翻訳ソフトがもう少し発達するとそれもいらなくなるかもしれませんが(笑)
大澤:健康寿命が延びている中、シニア層の活用についてはどうお考えですか。
佐藤:弊社でも国の政策と共に再雇用を考えたり70歳定年と言われる中で、シニア層の活用は喫緊の課題です。その人材の長年にわたる経験をどのように顕在化させて、モチベーションを下げずに最適な場所で働いていただけるかというのは非常に課題です。今まさに取り組んでいるところで、施策としてお話しできるレベルにはまだまだ達していません。
大澤:弊社でも登録いただく方を見ていると、60代は正社員志望の方もかなりいますし、業務委託でもいくつもプロジェクトをかけ持つ方も出ています。将来的な事業の話ですが、シニア従業員方向けの第二のキャリア制度というような形で企業様と連携させていただき、例えば御社のシニア層の方々の技術力を求めている他の企業様に派遣して、知見やスキルを活かしていただくというような仕組みもできたら良いなと思っています。
R&D人材の流動化に向けた課題と可能性
大澤:御社の複(副)業の制度についてはどのような状況ですか?
佐藤:再雇用の際に一部副業を認めていますが、先進的な企業様に比べるとその分野はまだまだ遅れていると思います。外にも活躍の場ができることで優秀な人材のモチベーションを落とさずに弊社で働いてくれたり、トータルの収入として一定上のものを保証できたりということはメリットになるのではないかと思いますが、まだそこまでの制度は整っていません。
大澤:複業の進み具合は業界ごとの差もありますが、職種による差も大きいと感じています。研究や開発の複業の課題と可能性をどのようにみていますか。
佐藤:研究開発の場合は、業務のほとんどが機密情報に関わりますよね。研究内容もそうですが、弊社のようにBtoBの業態ではお客様の機密事項も関わってきます。そのあたりをどう担保しながら外部人材を活用するかということが非常に課題だと思います。
大澤:情報の取り扱いは弊社としても非常に重要だと考えており、万が一の場合の責任は弊社が負うという基本契約となっています。複業・業務委託と聞くと秘密保持を懸念する企業様も多いのですが、実際には派遣や正社員転職でも同様のリスクはあると思います。幸いにも今のところ弊社の24年間でそういったトラブルは発生していませんが、企業様はもちろん働く個人の方にも不利益を被らないように、少しでも安心して活用いただけるような仕組みづくりを今後も行っていく予定です。
佐藤:機密情報の取り扱いへの課題というか不安はあると思いますが、実際にオープンイノベーションとして成功している事例もありますので、RDサポートさんのようなエージェントを介すことで安心して活性化されると良いと思います。
大澤:「日本のR&Dを進化させたい」というのがRD LINKのビジョンでもあるので、そこに恥じないように精進したいと思います。本日はお忙しい中ありがとうございました。