帝人株式会社 ヘルスケア新事業部門 機能性食品素材事業推進班 三好孝則氏インタビュー
今回企業インタビューにご協力いただいたのは、帝人株式会社のヘルスケア新事業部門機能性食品素材事業推進班の三好孝則氏。
CMでもお馴染みの帝人株式会社は、1918年に創立し、現在は国内外連結で約2万人の従業員を抱える企業となりました。HPでも掲げているように、グループとして社員の多様性を活かし、社会が必要とする新たな価値を創造し続け、未来の社会を支える会社になることを目指し、イノベーション創出に積極的に取り組んでいらっしゃいます。
そんな帝人社に今回RD LINKを活用いただきました。
企業紹介
帝人株式会社
1918年(大正7年)創立。マテリアル、ヘルスケア、繊維・製品、ITなどの事業をグローバルに展開し、企業理念に掲げる人々の「Quality of Life」の向上に努めている。
プロジェクト内容
1『自社開発菌の事業化実現性についての相談』×『食品、医薬品の研究開発エキスパート』
新規プロバイオティクス商品の上市に関して各国の規制やガイドラインが要求する内容がはっきり明示されておらず、どのような安全性評価が必要か、またどのようなデータの解釈が許されるのかなどについて明確に分からないことが多い。自社開発した菌を事業化するためにどのようなことを検証しておくべきか、専門家のアドバイスを求めてRD LINKに依頼。
2『食品開発フローのマニュアル化』×『食品、医薬品の研究開発エキスパート』
研究〜上市に向けてどう動くかといった進捗管理のマニュアル化に向けたサポートを求めてRD LINKに依頼。
エキスパート支援内容
食品から医薬の幅広い分野で研究開発に従事し、特に、食品の健康機能性研究には20年位以上取り組み、基礎研究から商品開発、成果の権利化・実用化、学術マーケティングなど幅広い経験をもつエキスパートをアサイン。ひとつめのプロジェクトでは新規事業の実現性に向けて3か月にわたり、月1~2回のディスカッションを実施。これにより研究の進め方や次の段階に進むためのクリアすべき条件が見えてきたので、現在はプロジェクトとしては終了し自社内にて進行中。
同エキスパートの知見を借りて、今後のために機能性に関する食品開発のフローをマニュアル化しておきたいとの追加要望により、現在は2つ目のプロジェクトが進行。開発するものや社内の優先度合いによって状況が変わる前提として、各ステージにおける検証内容、ステージ通過の為の判断基準等の設定など、最低限の内容を落とし込んだマニュアルを作成中。
RD LINKへの依頼の経緯
今回RD LINKを活用いただいた経緯をお聞かせください。
まずこの食品事業については、2016年ごろから帝人の中での全くの新規事業という形で始めたという背景があります。これまでは、基本的に海外を中心に外部で開発されたものを導入して販売するとうスタイルでした。外部の製品について色々と調査を行ったりエビデンスを取っていくということ自体は、これまでに弊社が行ってきた医薬品の開発と通じるところもありましたので自社内で問題なくできてきたのですが、事業として拡大するためにいずれは自社での新製品開発も行ってきたいと考えていました。
手探りで食品素材の研究開発を始めてはいたのですが、進める中でどうしても「このレベルで十分なのか」「我々が独りよがり的に判断してしまうことにならないか」といった恐れがあり、何か手を打たなければならないと感じていました。そこで今回RD LINKという外部の人材をスポット的に活用させていただけるというシステムがあると知り、食品の開発という分野で知見やノウハウを持っている方に忌憚ない意見をいただきたいと思い、依頼させていただきました。
帝人社のような大きな企業の場合、ネットワークやパイプも豊富にあるかと思うのですが、そのあたりはいかがなのでしょうか。
逆に、既存のネットワークや知見に引っ張られてしまうのを避けたいという思いがありました。弊社として医薬品開発をやってきた関係上、食品の開発も医薬品の開発に近い考え方をしてしまうところがあります。それがある意味オーバースペックになっているという懸念がずっとあったものですから、あえて外の意見を聞きたいと思いました。
なるほど。本当に真っ新な視点からの客観的な意見を求めていらっしゃったのですね。
エキスパートが入って変わったこと
実際にエキスパートとしてKさんが入ったことで何か変わりましたか。
我々のこれまでのネックとして一番大きかったのは、いつまでたっても本当に正しいのか疑問を持ちながら、つまり正解が無い状態でやり続けなければいといけないというところでした。それが今回Kさんの意見を伺うことができたことで、我々としても一つの明確な判断基準ができたと思います。 外部の方の意見をそのまま受け入れるわけではありませんが、Kさんのような専門家の意見と自分たちの意見を比較することができるようになったということは非常に大きな収穫ですね。
Kさんとは具体的にどのように業務を進めたのでしょうか。
Kさんには定例でミーティングに参加いただきました。ミーティングの際にお願いすることを事前にお伝えして次回までに準備いただくという形で進めましたので、我々としても必要以上の時間もかからず効率的に動けていると感じます。
Kさんとの連絡について、弊社が入ることでのタイムラグやコミュニケーションロスなど不都合はありませんでしたか。
お願いする内容によって変わるのかなと思いますが、今回弊社が課題としていたところは緊急性を要するようなことや、細かい手直しが都度必要なことではなかったので、RD LINK様に間に入っていただき、しっかりまとめていただいたというフローの方が合っていたのかなと思います。
Kさんとは直接メールで資料をやりとりすることはあります。それ以外の基本的な連絡はRD LINK様を介してですが特に不都合はありません。
エキスパートを活用して良かった点があれば教えてください。
本当に困っている課題を相談してそれに対して回答いただけるという、今の我々として一番ほしかったところには、エキスパートの方の活用というシステムは合っていたのかなと思います。長期的に継続する形の仕事ではないため、派遣社員や正社員といった雇用形態の人材にお願いすることは難しいと思っていました。
また、Kさんはやはり実際に企業での商品開発に関わった方でしたので、いただく意見も単なる理想論やあるべき論にならず、妥協できるところとしてはこのレベル、といった現実的なアドバイスをいただけたことも良かったと思います。
今回は弊社の中でどういうプロセスで進めていくのかというフォーマットを作りたいという内容でご依頼しました。例えばこれをコンサルティング会社にお願いした場合には先方に考えていただいて決まったものが出てくるのでしょうが、それが弊社に合っているご提案なのかという点を別途考える必要が出てきます。そのような意味では今回のように一緒に相談に乗ってもらいながら、Kさんの知見を注入いただけるという形で動けたのは良かったのではないかと思います。
解決したい課題によって、求める答えもその方法も変ってくるということですね。
そうだと思います。
RD LINKの良さと外部人材活用の留意点について
RD LINKを実際に活用してみていかがですか。
まずBtoCという形にはならずにBtoBの契約でやらせていただいたことが良かったです。弊社の場合、BtoC契約となるとどうしても様々な懸念事項が生じることがあるのですが、間に法人としてRD LINK様が入っていただけたことで、ひとつの安心材料となり社内的に進めやすくなりました。
また個人で契約した場合の心配事として、もしうまくいかくなったりした時に大変なのかなという気がしますが、やはり契約の安心感があるので良い意味でビジネスライクにでき、無用な心配をあまりしなくて良いぶんやるべきことに集中できて良かったと思います。
帝人全体としては外部人材の活用は活発にされているのでしょうか。
派遣社員の方はいらっしゃいますし、大学の先生や関係各所の方にコンサルティングをお願いすることはありますね。
先ほど契約のお話がありましたが、帝人の場合、今回のRDLINKのサービス導入は部署単位の決済で進められるものなのでしょうか。
そうですね。今回のケースはコンサルティングや共同研究に近いレベルなので、その程度であれば弊社では部署単位で契約できる範囲ではありますね。
そうなんですね。必要な時にスポットでスモールスタートいただけるのは弊社としても活用いただくメリットだと思っています。ちなみに、外部人材を活用するうえで留意したほうが良いことはありますか。
Kさんの場合は特にありませんでしたが、やはりスペック的には要件を満たしていてもコミュニケーションに少し問題があったり、どうしても実際に来ていただいてからでないと分からない問題は一般的にありますよね。まぁ、業務委託に限らず、派遣や正社員採用でも同じことは言えますが。 またどうしても会社の中に入ってきてもらうとなると、企業の文化というものがあります。弊社も比較的古い会社ですので、そこでなかなか合わずに人材の方が苦労されるケースはあるみたいですね。
ギャップはできる限り事前に埋められるよう弊社もサポートできればと思います。今回エキスパートの方が一時的にチームに入られるということで、現場が混乱するようなことはありませんでしたか。
大きな混乱はありませんが、もう少し気を付けたら良かったかなという反省点はありますね。最初の段階からもう少し「これをお願いしたい」「ゴールとしてはこういうもの」ということを明確にしておいた方が良かったかなと思います。私と現場の研究所メンバーとの認識の違いもあったので、社内的にもそこはしっかり最初に決めておくべきだったのかなとは思います。
認識の違いというのは具体的にどういうところですか。
私が今回のエキスパート活用でイメージしていたのは、ざっくりした大枠の方向性やプロセスを決めるということだったのですが、現場としては具体的な中身までの落とし込みを期待していたというズレがありました。どういうものがゴールとして最終的にほしいのかというところをもう少ししっかり決めておくべきだったかなと思います。
なるほど。逆に社員ではなく外から入る人材の方に求めるマインドやスタンスといったものはありますか。
求めるものと言いますか、覚悟いただいておいた方が良いと思うのは、お願いする企業側は色々よく分かっていないということですね。今までの仕事は畑違いだったり、全然分からないからエキスパートに支援をお願いするケースが多いと思いますので、分かっていなという前提でお話しいただいたり対応いただけるとありがたいなと思います。
あとは先ほども申しましたが、やはり企業それぞれの文化というものがあります。外部の方は馴染みづらいとは思いますが、そこは覚悟して来ていただき、理解いただけるといいなと思いますね。
R&D人材の複業について思うこと
R&D分野の人材が複業することについてどう思いますか。
個人的な考えとしては、理系の人間こそ複業は良いのではないかと思います。営業職の方などは他の企業の方と接するのが仕事なので、色々な事に触れる機会がありますが、理系の方、特に研究に近い方は接触する範囲が非常に限られてきます。そうすると会社の中の世界が全てになってしまうので、企業ごとの考え方などを身に付けられる点で複業というのは良いというか、必要なのではないかと思いますね。
秘密保持的なところはあると思いますが、外部の知見を自社に持ち帰るというのは良いですよね。色々な企業の考え方が分かるだけでも個人としての幅の広がりは全然違うのではないかと思いますね。
エキスパート活用を検討している企業様へのアドバイスはありますか。
先ほどもお伝えしましたが、我々の反省点として、もう少し何をお願いするのかを自分たちの中で明確にしておけば良かったかなというのがあります。ゴールは自社内でできる限り明確にされておかれた方がより有効活用できると思います。やりながら出てくる答えで右に左にブレてしまうというのは、やはり避けておく方が良かったなと思います。
今回新規素材開発の分野で外部人材を活用いただきましたが、秘密保持の面で外部人材活用を迷われる企業様も多くいます。その点三好さんはどのようにお考えですか。
当然秘密のレベルにもよると思います。今回は事業化に向けたシステム作りがメインだったのでお願いしやすかったですが、実際に研究の中身までお願いできるのかというとちょっと考えるかもしれませんね。ただ一方で、今大学との共同研究も積極的に取り組むようになっていますし、ご存知のように、もう自社の中だけで何かができる時代ではなくなってきています。そのため、外部の知見を求めることは方向性としては間違っていないと思います。ただ、かなり自社の機密に近いセンシティブな領域になるとやはり外部の方へのお願いは難しいと思いますね。
今後の展望
最後にですが、今後の事業展望を教えてください。
弊社はもともと繊維や樹脂といった素材事業と医薬品・医療機器といったヘルスケア事業を展開していました。今、ヘルスケアに関係しながら素材的な考え方もできるというところで食品分野を新規事業で始めたところになります。これまでは外部からの導入中心であり、事業を早く立ち上げることを最優先で進めてきましたが、帝人社はもともとメーカーですので、食品事業についてもいずれメーカーになれるように頑張りたいと思います。